15分で読めるキービジュアルの教科書 ~良いキービジュアルのポイントを解説~

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はじめに

こんにちは!デザインメイト代表の長谷部です。

この記事では、キービジュアルについて深く掘り下げ、その重要性や意義、構成要素をわかりやすく解説していきます。

キービジュアルは、商品やブランドの成功を左右する重要な要素です。これを正しく理解し活用することで、売上やブランド価値を大きく向上させる可能性があります。しかし、私たちがキービジュアルについて資料を調査した際、多くの情報が「キービジュアルの紹介」に留まり、良いキービジュアルとは何か?を理論的に解説したものがほとんど見当たりませんでした。

そこで、本ブログではそのギャップを埋めるべく、キービジュアルに関する具体的な知識を提供することを目的としています。

特に日本のメーカーでは、キービジュアルへの意識が希薄なケースが多く、これがブランドの成長を阻害する一因になっていると感じています。この記事を通じて、キービジュアルの重要性をより深く理解し、実務に役立てていただければ幸いです。

この記事の想定読者
このブログは、以下の方々を対象としています。

  • メーカー等の経営者の方
  • マーケティングやブランディングに携わる方
  • 商品開発を担当する方

ぜひ最後までお読みいただき、キービジュアルの可能性を一緒に探求していきましょう!


第1章:キービジュアルの重要性

1. キービジュアル一つで売上が変わるという事実

世界をリードする外資系メーカー、例えばP&Gやユニリーバなどでは、ブランディングやマーケティング活動において、キービジュアルとパッケージデザインを特に重視しています。これらの企業では、キービジュアルを単なる広告の一部ではなく、ブランド全体を統一し、生活者の記憶に強く残る「戦略的な資産」として扱っています。
実際に私がお仕事をするP&Gやユニリーバ出身の方たちも、「キービジュアル一つで売上が大きく変わる。にもかかわらず日本の多くの企業ではキービジュアルを重要視していないし、作っていないケースすらある。」とおっしゃっています。

2. 日本企業の課題

上述のとおり日本の多くの企業では、キービジュアルという概念自体が曖昧なまま、短期的なプロモーションやキャンペーンに頼る傾向があります。

これは、ブランド全体の一貫性を欠いたり、生活者に統一されたメッセージが伝わらない原因となります。例えば、ある食品メーカーの事例では、広告では「贅沢感」を訴求しつつ、パッケージでは「健康志向」をアピールするなど、メッセージがばらばらで生活者が混乱するケースもあります。

第2章:キービジュアルとは?

キービジュアルの定義

キービジュアルついての明確な定義はありませんが、以下が当社のキービジュアルの定義となります。
キービジュアル(Key Visual)は、ブランドや商品の魅力や価値を、感情に訴えかける一枚のビジュアルで表現したものです。
単なるデザイン要素ではなく、ブランド全体の一貫性を保つ「クリエイティブの羅針盤」として機能します。広告、パッケージ、ウェブサイト、ポスターなど、あらゆるチャネルで統一して使用されることで、ブランドのストーリーを生活者に直感的に伝えるものです。

そもそもどのようなものがキービジュアルなのかがわからないという方は、以下にいろいろな事例が掲載されているので参照してみてください。

【総数52件】参考になるメインビジュアルデザインまとめ! | UI LIBRARY
良質で参考になるWebデザインを、UIコンポーネント別にまとめたギャラリーサイト、UI LIBRARYです。ヘッダー、スライダー、お問い合わせフォームなど、Webサイトデザインのアイデアに繋がる事例をUIパーツごとに紹介しています。

キービジュアルの意義

日本の多くの企業では、マーケティング部門と商品開発部門が縦割りで動いているケースが多く、これがブランドの一貫性を欠く1つの原因となっています。

例えば商品開発部門が商品の性能や特徴(低カロリー、エコ素材など)を重視し、それをパッケージに反映している一方で、マーケティング部門が広告やキャンペーンで感情的なメッセージ(贅沢感、楽しさなど)を打ち出すなどがその例です。

このようなチグハグの訴求が生活者に混乱を招き商品理解の阻害やブランドロイヤリティの低下を招く原因になっています。

キービジュアルが存在することで、ブランドはあらゆるチャネルを通じて一貫したメッセージを発信できます。これにより、生活者がブランドを理解しやすくなるのです。

第3章:良いキービジュアルの条件/要素

本章では良いキービジュアルの制作や評価において理解すべき、以下の4つの普遍的な要素について詳しく解説します。

大前提として、キービジュアルは、ただ「かわいい」「かっこいい」といった主観的な評価で作られるものではありません。また、「レトロなデザインが流行っている」というようなトレンドや、「チョコレートはトロっと見せた方が良い」といった手法的な好みに左右されるものでもありません。人々の目に留まり、記憶と心に残るビジュアルには視覚的/心理的な理論に基づいた法則性があります。それを正しく理解することが、良いキービジュアルを作るうえでの出発点となります。


1. 便益が明確になっているか

まず一つ目は便益が明確になっているかということです。

マーケティング、特にキービジュアルやパッケージデザインにおいて、商品の機能や特徴を伝えるだけでは十分ではありません。

むしろ、機能を訴求しても差別化にはつながらないことは、すでにご理解いただけるかと思います(例:チョコレートの「美味しさ」や除菌スプレーの「除菌力が高い」といった機能面を訴求しても、生活者に響かないことが多い)。

よってキービジュアルにおいても、機能そのものではなく、生活者にとっての具体的な「便益」——つまり、その商品が自分にどのような価値や解決をもたらしてくれるのかを、明確に示す必要があります。

事例:食器用洗剤ジョイのキービジュアル

ジョイは、単に「洗浄力の高さ」を訴求するのではなく、「排水溝も除菌できる」という具体的な便益をビジュアルで伝えています。

汚れのない排水溝を描くことで、「排水溝が汚れている気がする」という生活者の「不」を解消できるというメッセージを直感的に伝えているのです。

このように、便益をビジュアルで具現化することで、「これを使えば自分の問題が解決する」と生活者に確信を持たせることが重要なのです。

参考資料:P&G流マーケティングの解説

そもそも便益とはなんぞや?という方は、株式会社MD 石井賢介氏による【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書が非常に参考になります。この資料では、生活者にとって「便益」をどのように訴求すべきかがわかりやすく解説されています。1時間読むのにかかりますが(笑)。
詳しくは、以下のリンクをご覧ください:

【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書|石井賢介
2020年5月末でP&Gのブランドマネージャーを退職しました。僕はこのNOTEで、P&Gで非言語的に受け継がれているマーケティングの思考法を、分かりやすい教科書のようにまとめようと思います。本気で読めば1時間かからず読めると思います。が、ち...

2. エモーショナルアンカーがあるか

商品が生活者に提供する価値は、便益だけではありません。ブランドや商品を「自分ごと」として感じてもらうためには、感情に訴えかけるエモーショナルアンカーが不可欠です。

少し前に流行った「エモい」という言葉がありますがまさにそれです。より広範な意味として、その商品を自分が使っている情景が思い浮かぶ、であったり、その商品を使うと青春時代を思い出すか。ということもエモーショナルアンカーとなります。

事例:ポカリスエットの広告

ポカリスエットのキービジュアルには、部活の練習中の一休みや青春時代の爽やかさが描かれています。このビジュアルを見るだけで、視聴者は汗をかいた後の爽快感や達成感、そして青春の記憶がよみがえるでしょう。「自分もこういう瞬間を体験したい」と思わせる力が、エモーショナルアンカーの役割です。


3. 五感に訴えるシズル表現があるか

三つめはシズル表現となります。

アメリカには「ステーキを売るな、シズルを売れ」という言葉があります。これはアメリカの経営アドバイザー、エルマー・ホイラーが、自分自身の経験から導き出した「ホイラーの法則」と言われる五つの公式の、一番目に書かれていることです。

シズルとは、商品がもつ象徴的な「シーン」や「らしさ」のことです。例えば、ステーキを焼くときの「ジュージュー」という音のことです。つまり、ステーキを売るためには「匂い」や「音」を売るのが重要で、売り込むべきものは、「品質」「構造」「値段」ではないということです。

五感を喚起するビジュアルは、生活者を商品体験の中に引き込みます。特に食品や飲料では、「おいしそう」「食べたい」という感覚を視覚で伝えることが重要です。

シズル表現は単においしそうな表現というだけでなく、以下のようなサブ要素があります。

▮ 商品らしさが表現できているか
▮ 動的な表現であるか
▮ 鮮度感があるか

事例:ニップン「オーマイプレミアム」

湯気が立ち上るパスタ、もちもちとした質感が際立つクローズアップ。このビジュアルを見るだけで、「出来立てでもちもちの食感」が頭の中に描かれます。単に「もちっとした食感」という言葉を伝えるのではなく、その質感を視覚的にリアルに再現することで、生活者に実際に手に取るきっかけを与えています。


4. 顧客の目に留まるストッピングがあるか

ストッピングとは、視覚的なインパクトによって瞬時に注意を引く力を指します。

現代では、日々膨大な量の広告や情報が流れる中で、消費者の目に留まるビジュアルを作ることが非常に重要です。

ドンキのようなバラエティストアを思い浮かべてみてください。店内では、各社がPOPに多様な色や装飾を施して目立とうと競い合っています。その中で、特に目を引くものもあれば、埋もれてしまうものもあります。

人の目を引く例として、人間には「見つめられると反射的に目を合わせてしまう」という心理的特徴があります。この特性を活用し、女優がこちらを見つめているポスターがあるのです。視線のインパクトによって注意を引き、メッセージが消費者に届きやすくなる効果を持っています。

また、ポスターや広告デザインにおいて、情報を散乱させるよりも、文章を一箇所にまとめた方が視覚的にスッキリし、情報が頭に入りやすくなるという特徴もあります。「目の動きが整う」デザインがストッピング効果を高めるのです。

ストッピングには具体的には以下の要素があります。

▮文字が大きくて見やすい
▮目がいろいろなところに行かない
▮棚の中で際立つ色味や表現が使われている
▮女優と目があうなど、思わず見てしまう要素がある

事例:AppleのiPodシルエット広告

真っ黒なシルエットとカラフルな背景で、iPodの白いイヤホンを際立たせたデザイン。シンプルでありながら目を引くこのビジュアルは、生活者の目に留まり、記憶に残ることで、iPodを「時代を象徴するアイテム」に変えました。


なぜ4つの要素を理解する必要があるのか?

多くのデザイナーやマーケティング担当者は、キービジュアルを「かわいい」「かっこいい」といった主観的な評価で判断しがちですが、それでは納得感のある一枚を作ることはできません。

キービジュアルの良し悪しを判断する具体的な基準がなければ、デザインを評価することも改善につなげることも難しくなります。

また、この4要素を基にした議論は、例えばマーケターとクリエイティブ担当者の意見を整理し、統一した方向性を見つける助けにもなります。

最後に

キービジュアルは、ブランドの一貫性をもたらす「クリエイティブの羅針盤」です。これを正しく理解し、活用することで、生活者の心を掴み、ブランド価値を大きく飛躍させることができます。

私たちデザインメイトは、これまで培ってきた国内トップクラスのデザイン力とシズル表現の実績を基に、クライアントの課題を解決するキービジュアルの制作をお手伝いしています。特に食品、玩具、化粧品メーカーにおけるパッケージデザインや広告で、一貫性を持たせたビジュアル提案を得意としています。

「ブランドの魅力を最大化し、生活者に愛される存在にしたい」とお考えの企業様は、ぜひ一度ご相談ください。私たちと一緒に、ブランドの新たな可能性を探求しましょう。